特許 令和7年(行ケ)第10043号「光拡散層形成用塗料、プロジェクションスクリーン用フィルム、及びプロジェクションスクリーン」(知的財産高等裁判所 令和8年3月26日)
【事件概要】
いわゆる選択発明として特許性が認められる余地がある本願発明について、顕著な効果を奏するかについての検討を行っていないとして、拒絶査定不服審判の審決が取り消された事例。
▶判決要旨及び判決全文へのリンク
【主な争点】
本願発明においては樹脂が「活性エネルギー線硬化樹脂」であるのに対し、引用発明においては樹脂の種類が特定されていない点(相違点1)に係る構成は、当業者が容易に想到し得るか。
【結論】
5 取消事由3(相違点の容易想到性判断の誤り)及び取消事由4(予測できない顕著な効果の判断の誤り)について
(4)…相違点1が上記…のとおりであり、…技術常識として、透明スクリーンに用いられる樹脂の選択肢として、「熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は活性エネルギー線硬化性樹脂」が知られていたものとすると、本願発明は、いわゆる選択発明である可能性があることに加え、…相違点1が…本願発明の効果に関連した構成要件に係るものであることを考慮すると、本願発明の相違点1の容易想到性の判断に際しては、いわゆる選択発明における判断手法が妥当する可能性がある。
…先行発明を記載した刊行物に開示されていない顕著な効果…を奏する場合には先行発明とは独立した別個の発明として特許性を認めるのが相当である。…
(5)…引用発明の樹脂として、引用文献1には、活性エネルギー線硬化性樹脂に関する記載も示唆もないため、…活性エネルギー線硬化性樹脂を採用する動機付けがある…とすることはできない。
(6)…周知技術1に関して検討したとおり、透明スクリーンに…含まれる樹脂の種類として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び活性エネルギー線硬化性樹脂は知られている…。しかし、…活性エネルギー線硬化性樹脂は、選択肢の一つとして知られているにとどまり、活性エネルギー線硬化性樹脂が…好適であるとか、…選択されることが一般的であるなど、…活性エネルギー線硬化性樹脂を積極的あるいは優先的に選択すべき事情のあることまでは、知られていたとはいえない。
そうすると、引用発明における樹脂として、活性エネルギー線硬化性樹脂を選択しようとする動機付けは、…周知技術から導き出されるとはいえないし、最適又は好適なものとしての選択ということもできない。
(7)…透明スクリーンに用いられる樹脂の選択肢として「熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は活性エネルギー線硬化性樹脂」が知られていたものの、引用発明及び周知技術によっては、…活性エネルギー線硬化性樹脂を採用する動機付けがあったとは認められないところ、本願発明が…活性エネルギー線硬化性樹脂…を採用することにより、…引用文献1…に開示されていない顕著な効果…を奏する場合には先行発明とは独立した別個の発明として特許性が認められる余地がある…。
(8)…本件審決が認定した、技術常識1の内容…そのものには誤りはない。
しかし、…技術常識1…は、…専ら活性エネルギー線硬化性樹脂について述べることに特化したものであり、その長所・短所や光学用途が示されているからといって、透明スクリーン用途として、…特に活性エネルギー線硬化性樹脂を用いることが技術常識であることを示すものではなく、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂と同列に並べられた選択肢として周知の活性エネルギー線硬化性樹脂を、特に選び出すことを自然に動機付けるものであるともいえない。…
…技術常識1は、特に活性エネルギー線硬化性樹脂を選択させるような動機付けとなるものではなく、容易にその存在を認識し好適材料として選択し得るものでもないから、この点から、本願発明を、直ちに進歩性を欠くものと判断することはできない…。
(9)…本願発明の進歩性判断に当たっては、引用文献1に開示されていない顕著な効果、すなわち、先行発明によって奏される効果とは異質の効果、又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏するか否かの検討が必要となる…。
本件審決は、本願明細書等に記載された実験例の例1ないし5の間での拡散率及び視野角…の違いは、…一般常識に基づく理論どおりであって、当業者が容易に推察できる…もので、…何ら驚くべきことでなく当業者が予測困難な効果ではないと判断した。
しかし、これは、本願発明の奏する効果について、本願発明がいわゆる選択発明として特許性が認められるか否かとの観点から、本願発明は、引用発明によって奏される効果とは異質の効果を奏するのか、あるいは、同質の効果であるが際立って優れた効果を奏するのか、についての検討を行った上でその効果を評価したものではないから、判断の前提において相当でない。…
【コメント】
審決は、本願発明の効果は理論的に説明できることから、当業者が予測困難な効果ではないと判断したものと思われる。しかし、進歩性判断に際して検討すべき問題は、本願発明の効果が引用発明の効果とは異質(又は、同質であっても際立っている)か否かであるから、判断の前提において相当でないとの判示はもっともである。